社友のお便り

私は１９６０年入社。根を回したりゴマを擦ったりして事を運ぶというような事にはあまり気乗りがせず、商社が合わないというかこのまま在社したままなのはいけない、会社にとっても迷惑などと若いころは考えていたが、その内社内結婚し社宅に入り子供ができ住宅ローンを一部会社からの融資に縋るという展開で、結局最後までお世話になりました。全く申し訳ないことではあります。〈ショージ君ももう少しヤル気をみせてくれたらなー〉というのが大方の評定だったが無い袖はふれない ‥‥ 。無いのですから ‥‥ 。

それでも海外は中南米南欧フランス語圏アフリカなど、人様のそんなにお越しにならないところで１０年余り過ごし、人様がそんなに経験されないことにも出っくわしそれなりに努力もした積り。それと定年の迫るころ、会社から大学でビジネス英語でも教えるのは如何とのお話があり、〈先生〉と呼ばれて老後を過ごすのも悪くはないと有難くお受けした。以後１０余年幸いブレークしたというか大学は４大学で教鞭をとる傍ら、Ａ新聞カルチャーセンター企業・研修センターなどで講座を持つことになり、一時は毎日出講の日々もあったが、漸くこの春で一段落した。幸せに思うことはこの教員生活で２千人位の若者に接することができ現代若者気質の一端を知りえたこと、また中国留学生を中心にアジアの若者と親しくでき言語習得に役だっただけでなく、何人かが所謂「教え子」として今もお付き合いしてることである。

１．フランス語

正式に学び始めたのは１９７５年６月赴任したキンシャサ（現Congo）の CCF（フランス文化センター）。ベルギーからの独立を勝ち取ったモブツ大統領（写真左）は authentique（本物の）フランス語を学べとCCFに１４クラスを設置、その内１クラスは我々外国人用であった。先生はマルグリットという３０代半ばか物静かで coquette の香も秘めた感じのマダム。でも授業は厳しかった。２０人程度のクラスだったが、私とギリシャ系米人男性は何時も点数がよく先生のお気に入り（本当です）。やり玉に上がったのは常時２人でやってくる米人女性だった。初めからすべてフランス語のみを使っての授業なので、米人女性が英語で質問しようものならてき面に不快感を表し関係悪化、出来も悪かったがとうとうこの女性２人は秋には出てこなくなった。オール仏語での授業というのは最初は大変だが意外に早く慣れます。

しかし発音練習は何時も疲労困憊した。個室に入りヘッドホンをつけて発音練習をするわけだが、男の先生が別室で聞いていて不適とみるとすぐさまイヤホンマイクで発音矯正をする。私の場合は voi（ヴォア）が弱点だった。voiture ＝ 車などの。１９７６年春マルグリットはキンシャサを離れた。これから Alicante（スペイン）で３年ほど過ごすから機会があれば遊びに来なさいと住所をくれた ‥‥ 。離婚してから cooperante（途上国でフランス語を教えるなどすると兵役などが免れるフランスの制度による派遣員）としてキンシャサに来ていたのだ ‥‥ 。さて Alicante 行くべきか？

ヴェルサイユ

それと当時当社はフランス政府との合弁で銅発掘の会社（SOMIBA社）を持っていて、フランス側はヘッドのバッソー氏（Jean-Pierre Bassot ＝ 地質学博士）以下３人のフランス人が常駐していた。いずれもENA（国立行政院）などのグランゼコール出の人達である。私は当社側の現地平取締役。この３年間の環境は本当に有難かった。月例の役員会での経験が私のフランス語の骨格を作ってくれた。バッソー氏とは今もお付き合いがありこの３月の震災後にはすぐお見舞いの手紙が来た。その見事な原文をここに載せたいところですが ‥‥ 。

１９７９年大阪業務部に移ると人事部から美味しい話が舞い込んだ。Berlitz で上級フランス語を学ぶなら会費は全額会社が負担するという。棚から〈おまんじゅう！〉。ところが行ってみたら個人レッスンながら実に易しい授業で、４か月であなたに教える教材がもうありませんという。この時も先生はマダムだったなあ ‥‥ 。別れ際にフランスの住所をくれた。また今度も。さて行くべきか？ それが問題 ‥‥ 。

この美味しい話は〈毒まんじゅう〉だったのか、１９８６年にアビジャン（Côte D'Ivoire）に赴任した。ここはアフリカ音楽絵画彫刻など文化の集結地。ゴルフ場も南アを除けばアフリカで１・２を争う（私はここで生涯唯一の大型コンペ優勝）。フランス人も数多く、あるときアフリカ音楽の勉強に来ていたポップ歌手志願のフランス女子学生Ｔ（写真下左）と知り合った。歌舞伎と能に興味あるとて、こちらは急ぎで猛勉強し色々教えて差し上げた。そして私は対価にお歌を習った次第。１９９３年大阪本社秋の文化祭では＜枯葉＞を歌って満場を沸かせた（嘘です。沸くには沸きましたが=写真下右）。

オンフルール	シャンソン

それと砂漠への旅！ 夜の星空に感銘しサンテグジュペリ｛星の王子様｝に関連づけた拙稿が日本経済新聞（１９８８年９月２日）の文化欄に掲載された。後年大阪外国語大学（現在大阪大学）で教えることになるのはこの記事のフランス語版が物を言った。会社からお奨めいただいたので、履歴書の他参考資料としてこのフランス語版をも付けて大学に提出していた。すると採用するからとすぐ連絡があり、ホテルＨで早速一席設けて頂いた。嬉しかった。

でも外大では失望することが多かった。まずまずな学生はいるが自分からすすんで勉強に取り組むヤル気のある学生が少ない。フランス語は名詞の性単数複数から始まり変化の多い語学だが、ポイントは動詞の接続法条件法である。真っ当に勉強すれば３日でマスターできるのに、ないがしろにするから何年やっても身につかない人が多い。リエゾンなんてその内自然に身に付きます。発音はお歌をよく聞くこと！ 楽かったのは夜間部の授業でここは女性が殆ど。教養として自分に磨きをかける人、フランス語が好きな人、フランスに行く予定の社会人もいたので授業がスイスイ進み１コマ（９０分）がすぐ過ぎてしまう。

このクラスは死ぬまでやりたいと思った。でもそうは問屋は卸さない ‥‥ 。

２．他の外国語

ハロン湾

今私がパソコンや携帯でメールしている外国語は、多い順にベトナム語、英語、中国語、フランス語、スペイン語です。ほとんどが教え子達とです。伊藤忠に勤める中国人男性もいます。ベトナムには２００９年４０年ぶりに行き北から（写真右）南まで教え子達に案内して貰った。ニクソンが北爆停止をした１９６９年暮れ危険を冒して２か月出張したハノイは、全く近代的な都市に変貌していた。随分危ない目にも遭いましたが語学をこんなに習得させてくれた丸紅には感謝の気持ちで一杯です！ 一つの語学の習得とは一つの新しい世界を持つこと。

村上春樹の作品は世界中で翻訳されています。今私は｛ノルウエイの森｝を英仏西中べ語で読み比べています。書中、緑とワタナベ君の最初のキッスについてこんな記述がある。「もちろんあらゆる口づけがそうであるようにある種の危険がまったく含まれていないというわけではなかった」さて各国語でなんと言うでしょう？ 作文できますか？ 言語によって少しニュアンスが違う世界が出てくるように思うのですが。

もう紙面が尽きました。どうか皆様も〈やがて悲しき外国語〉にならないよう、お子様などくれぐれもお気をつけてお導かれるよう祈念しております！

子供のころから多大な時間をかけて勉強した割にはあまり活用もせず人生が終わるとしたら悲しいですよねこれは ‥‥ 。やはり ‥‥ 。

エッ？ヤル気をみせ過ぎましたか？そうだとすれば申し訳ありません。

 

＝２０１１年７月９日記＝